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日常の一コマや感じたこと。 偏見に満ちたオタク発言とか 二次創作発言などが極めて多し。 良く分からないと言う方は、回れ右推奨です。
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「ついてくるな」

 酷く冷たい言葉と声音。
 けれど其処で引き下がるほど、彼は軟な性格をしていなかった。
 普段は柔和な顔いっぱいに渋い皺を寄せて、それでも足は
 真っ直ぐに歩き続ける。前を歩く影法師が止まれば止まり、
 また歩き出せば彼も歩き出す。

「ついてくるな。聴こえないのか?」

 影法師がぴたりと動きを止めて、くるりと彼を振り返った。そして
 再び、冷たい声が突き刺さる。先ほどよりも幾分苛立ちを含んだ声音は、
 氷柱となって彼をその場に縫いとめた。
「俺の尻を追いかけるほどの暇があるなら、さっさと帰って夕餉の仕度でも
 したらどうだ?元々それがお前の仕事だろう?」
「私の仕事は、ぼっちゃんをお守りすることです」
 漸く開いた口で、彼は目の前の主に反論する。ぼっちゃん、と呼ばれた主は
 さも嫌そうに顔を顰めて、目を眇めて見せた。
 サラサラと零れ落ちる黒絹の髪の隙間から、海よりも深く蒼い瞳が鋭く煌く。
「グレミオ──お前の主は、誰だ?」
「ぼっちゃんです」
 さらり、と事も無げに即答された言葉に、主は片眉を上げて見せた。
「そうだ。俺だ。──その俺が、ついてくるな、と言っている。従者なら従者らしく
 主の言葉に従え」

 きっぱりと告げる声は、まだ何処となく少年の幼さを残したもの。
 あの呪われた紋章を継承したその時から、主は一切歳を取らなくなった。
 永遠に若いままの主を見つめ、彼──グレミオは、己の手を見下ろした。

 ──もう、重い斧を抱えることもできなくなった、枯れ枝のような手を。

「俺が言わずとも、己で気づいているのだろう?──お前では、昔のように
 戦えない。危険が迫っても、俺を守るどころか、俺に守られて逃げるのが
 関の山だ。それが俺にとって迷惑だということくらい、ボンクラなお前でも
 解かるだろうが」
 
 凛と張った、甘いテノール。
 若々しさに溢れた声音を噛み締めるように、いとおしむように脳裏に刻んで、
 グレミオは柔らかく微笑んで見せた。
「それでも、グレミオはお傍に居ります。もう二度と、ぼっちゃんを独りにしないと
 決めたのです」
「……勝手に決めるな」
 少しばかり、主の声音が緩んだ。グレミオに、言葉の裏を悟られたことに
 気づいたのだろう。蒼い瞳が、ほんの微かに揺れた。

 ──幼い時からの、彼の癖。
 <動揺したり困ったことが起きると、微かに目をそらして、右手で左腕を
   抱くようにして押さえる>

 今もまた、揺れた心を瞳に隠すように。自分で自分を守るようにして、左腕を
 懸命に摩りながら押さえている。
 そんな主を、心からいとおしげに見つめて、ぼっちゃん、と呼びかけた。
「心配しないでください。──その紋章は、テッド君の御祖父さんと、テッド君。
 そして、あの方が今もずっと、守り続けているものです。悪しきものでは
 ありません」
「………」
 無言のまま、主は視線を上げ、遙か彼方へと続く蒼穹を見つめた。
 空の藍よりも哀しげに輝く瞳は、何も語らず。ただ、静かに大地へと移り、前方に
 広がる石畳の道だけを映していた。
 そのまま再び歩き始めた主を、グレミオは追う。


 今度は、何も言われなかった。



──…See you next







…かもしれない。不定期で(ヲイ)

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