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腕の中にある温もりは、想像以上に温かくて、熱い。
力を込めてしまえば、容易く壊れてしまいそうなほどに脆い。
けれど己の指を握る力は、なんと強いことか。
「強いものだな、命と言うのは」
ぽつりと呟いた言葉。
それに気づいた彼女は、洗濯物をたたむ手を休めて彼を見やった。
そんな彼女に気づいたのか、気づかないのか。
彼はただひたすらに腕の中の命を見つめていた。彼の蒼い瞳を
じっと見つめてくるのは、彼女に良く似た黒い瞳。
黒曜石のように美しく、陽光のように柔らかい。そんな瞳に吸い込まれそうな
感覚を覚えながらも、彼はその瞳を覗き込んだ。
「他者の命を糧にするために生き延びる俺が、今、新しい命を抱いている。
…皮肉なものだな、と思う反面、これ以上に喜ばしいことなど無いように思うんだ」
「小難しいことを言わないで、もっと素直に喜んでくださいよ」
くすくす、と鈴のように軽やかに笑って、彼女はたたみ終えた洗濯物を仕舞うべく
立ち上がった。通りすがりに彼に近づくと、彼の抱く命──赤ん坊の頭を優しく
撫でた。気持ち良さそうに笑う赤ん坊を見ていると、彼の心まで温かくなるようだった。
「あなたがそんなに難しい顔をしていると、この子まで難しい顔をしますよ?
ただでさえ、あなたに似た顔をしているんだから」
「……悪かったな」
む、と眉間に皺を寄せる彼。そんな彼の眉間を、彼女は優しく突付く。
「ほら、それがダメだって言ってるんです。──ね、パパ、怖いよねえ?」
目を細めて優しい笑顔を湛える彼女は、そう言って赤ん坊を彼から取り上げて抱いた。
えー、と言葉にもならない声を上げて、赤ん坊は笑う。
「…やっぱり母親が良いか。どうも俺は、子供に嫌われる性質らしい」
くす、と苦笑混じりに笑う。そんな彼に、彼女は、そんなことないですよ、と笑った。
「難しい顔してるから、怒ってると思ってるだけですよ。もっとにこやかに笑ってあげれば
この子だってもっと笑いますよ」
「…またそれか。仕方ないだろう?この顔は生まれつきなんだから。お前みたいに
年がら年中ケラケラと暢気に笑えるような環境にも育ってないしな」
「グレミオさんたちの所為にしないの。──全く、大人に見えて、案外子供なんだから…」
軽く溜息をついた彼女。その頬を、ぺち、と叩くのは、小さな紅葉。
吃驚して目を見開いた彼女と、目を瞬く彼が見たのは、悪びれなく無邪気に笑う
赤ん坊の顔。
「……っ、く………」
「?!え?え?な、何で???」
急に顔を伏せて手で顔を覆う彼と、ニコニコと笑う赤ん坊を交互に見ながら、
彼女は困惑の声を上げた。
「っはははは!!──そら見たことか…っ!この子は、俺の味方だってさ」
声を上げて笑う彼は、そう言って赤ん坊を彼女から奪い返すと、高く抱き上げた。
「お前は中々人を見る眸があるな。将来が楽しみだ」
蒼い目を優しげに細めて、彼は赤ん坊を見つめた。
見下ろす子の顔は、満面の笑みだった。
「……普段から、そうやって笑ってれば良いのに」
悔しさ半分、嬉しさ半分の顔で笑って、彼女は放置したままの洗濯物を手にとって
部屋を出た。
閉めた扉の奥から聴こえてきた、楽しげな笑い声。
それに口元を綻ばせて、彼女は廊下を歩き始めた。
──…See you next Seen…
久しぶりすぎ。しかも時間たつのが早すぎ(笑)
さてさて、この赤ん坊。男の子でしょうか、女の子でしょうか。
どちらにしても坊に似てるので、相当な美人だと思われます(笑)