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目の前の状況を理解することに、彼は些か時間を要した。
華奢な躯を丸めて、雪の降り注ぐ軒下に蹲っているのは、紛うことなく我が娘。
鼻の先も、頬も。指の先から全てを紅く染めて、震える躯を必死に押さえ込んでいる。
「……小父さん?」
何時もなら明るい──まるで陽光のように眩い輝きを放つ瞳が、今はいかにも
頼りなさげに。そして胡乱に光っている。
如何した、と彼にしては珍しく声を荒げて駆け寄るも、少女は全く動こうとしない。
まるで動くことを忘れてしまったかのように。
「如何した…!!一体何をしているんだ!こんな寒空の下で!!」
責める口調。
こんな時に気遣ってやれない自分の不甲斐なさも忘れて、彼は慌てて少女の腕を取った。
──氷のように冷たい、その細い腕を。
「……あたしね……母さんと、喧嘩したの」
ぽつり、と。
雪のような声を出して、少女は呟く。思わず動きを止めた彼を見上げて、少女はもう一度
唇を動かした。
「小父さん、あたしね、母さんと…喧嘩したの。母さんが、小父さんの事好きなことくらい、
あたしでも解かる。小父さんが、母さんのこと好きなことも。だからね、結婚しちゃえば、って。
旅に出て、顔も覚えてないような父さんなんてもう忘れようよ、って。あたし、母さんが好きだから。
そして同じくらい、小父さんの事も好きだから。大好きな二人が倖せになれば、それで良いって
思った。だから、そう言ったの。……そしたら……そしたら……母さん……」
母親譲りの、漆黒の瞳に、じわりと雫が滲む。
それに触れた雪と一緒に、雪よりも白い肌を静かに零れ落ちた。
「母さん、凄く哀しそうな顔して……それ以上は言わないで、って」
何時も優しくて穏やかで。
女神様が居るとしたら、きっとこんな顔で微笑むんだろう、と何時も思っていた母さんの笑顔。
その笑顔に、これ以上無いほど哀しそうな表情を浮かべて、母さんは俯いた。
「どうして、って幾ら聞いても教えてくれないの。あたし、そんなの悲しいよ、って。どうしてそこまで
父さんに気を遣うのかが解からない。旅に出たってことは、あたしたち捨てられたも同然だよって
言ったら………母さん、あたしを打ったの……!」
『父さんはそんな人じゃないの!勝手なこと言わないで!!』
『何よ…!本当のことじゃないっ!捨てて無いなら、どうして帰ってこないのよ!!』
「……父さんなんか…大っ嫌い…!母さんをあんなに苦しめて……倖せを奪って…!
父さんさえ居なければ、母さんと小父さん、結婚できるのに!!」
血を吐くような、憎悪。
氷のように冷たいそれは、彼の心を深く抉り、虚を広げてゆく。
「…でも、それ以上に……母さんを怒らせて傷つけた、あたし自身が大っ嫌い!!!」
初めて見た、母の哀しげな顔。寂しげな顔。辛そうな顔。──怒る、顔。
初めて打たれた頬が、寒さを感じないほどに熱くて、心が痛い。
如何して良いのか解からなくて、気が付いたら家の外に飛び出していた。
「……話は、解かった。とにかく、家に帰ろう?お前が風邪でも引いたら、きっとお母さんは
今以上に辛い思いをすることになる。…だから、帰ろう」
寒さではないもので強張った顔に、無理やり笑みを浮かべ、彼は少女の腕を取って立たせた。
今度は少女も素直に立ち上がった。
──何処か遠くから、少女を呼ぶ声がする。
きっと彼女も家を飛び出して、我が子を捜し歩いていたのだろう。薄着のまま、この雪の中を。
そして同じ雪の中を、彼も立ち尽くしている。
我が業が生み出した罪を、雪と共に背に負いながら。
──…See you next Seen…
久しぶりすぎて、忘れ去られてるかも( ̄▽ ̄;)
少しでも切なさを感じていただければ…(この出来で無理言うな)