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日常の一コマや感じたこと。 偏見に満ちたオタク発言とか 二次創作発言などが極めて多し。 良く分からないと言う方は、回れ右推奨です。
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 呼んでも返事がないので、そっと襖を開いた。

「…又兵衛さん?」
 物音をたてないように、そっと、そっと。
 それでも少し緊張した声で、小さく彼の人の名を呼ぶ。
 やっぱり返事は無い。……もしかして、居ないのだろうか。
 締め切って暗い部屋。
 耳を澄ますと、僅かに寝息のらしきものが聞こえた。
(…寝ちゃってる、の?)
 部屋の主は不在なのではなく、単に早寝してしまっているらしい。
 がっかりしたような、ほっとしたような。
 何とも言い難い気持ちで息をつき、私はそろりと歩を進めた。
(…あの人、壁際で寝てることが多いから…)
 踏まないように、そっと。泥棒の様な足運びで、暗闇に目を凝らす。
 ほどなくして、足が布団を踏んだ。――やはり壁際に居た。
 私は屈む。
 手探りで肩らしきところを見つけると、ゆさゆさと揺すった。

「又兵衛さん。申し訳ないですけど、起きてください」

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。
 私よりずっと大きな。巨漢と言うほどではないが
 大きなガタイを持つ男の肩を、一定のリズムで揺する。

「寝てるところごめんなさい。でも、起きてください」

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。
 返事は返らない。ただもそもそと。
 起こす私の手を厭うように、寝返りを打ったのが分かった。

「又兵衛さん、お願いします。…連れて来い、と頼まれてるんですから」

 本音で言えば、このまま寝かしておいてあげたい。
 真田さんと明石さんがノリノリで始めた、クリスマスパーリー。
 私の目から見れば、悪ふざけ以外の何物でもないそれに、
 又兵衛さんを巻き込むのは気が引ける。
 しかも、わざわざ叩き起してまで。

(…止めた)
 私は揺する手を止めた。
 何だか考えれば考えるほど、又兵衛さんが気の毒だ。
 あの真田さんがノリノリなのだから、行ったところでどんな目に遭うやら。
 普段から、真田さんに振り回されて気苦労が多いのだし。
 今日くらい、ゆっくりこのまま寝かせてあげる方が良い気がした。
 …明石さんには悪いけど、見つからなかったってことにしよう。
 それよりも、生真面目ゆえに一人犠牲になっているであろう
 長曾我部さんの援護に回ってあげた方が良い。


「もうおしまいか?」


「!!?」
 立ち上がろうとした矢先、布団越しのくぐもった声が聞こえて。
 吃驚して悲鳴を上げそうになり、慌てて口をふさいだ。

「お…起きてたんですか…?」
「その質問は間違っているぞ。あんたが起こしたんだ」

 くつくつと笑いながら、のそりと暗闇の中に影が身を起こした。
 くあ、と小さく欠伸を噛み殺す気配。
 闇の腕が伸びてきて、私を引き寄せる。
 ぽすっと胸に倒れ込んだところで、耳元に髭が当たった。

「どうせまた、真田あたりが騒いでるんだろ?…巻き添えはごめんだ。
 見つからなかった、ってしらを切り通せ。…できるか?」
「…そのつもり、だったんですけど。今、まさに」
「それは重畳。――で?それを伝えた後、あんたはどうするつもりだ?」

 ん?と耳元で首を傾げたのが分かる。
 ……此処に居たい、などと言ったら迷惑だろうか。

「…とりあえず、長曾我部さんのフォローを――」

 するつもり、の一言が。
 温かい感触に、消えた。


「…戻ってこいよ。此処に。そのくらいの時間なら、起きて待ってる」


 くすくすと笑う声。
 からかう声だけど、その言葉は本音だと――そう、思いたい。

 はい、と小さく返事をすると。
 もう一度、ぬくもりが重なった。
 喧騒も届かない、この部屋に。

 静かな夜――聖なる夜が、溶け込んでいく。





   †

サイトに短編で書きたかったけど。
何かいろいろしてたら間に合わなかったので。
クリスマス又兵衛話。
元ネタは、本家さんの「クリスマス当日」です。
ぶっ壊れた明石さんが結構好き(笑)
ちゃんとサイトにコーナー(?)作ったら、
後日談である「クリスマス後日」も書きたいなぁ…。

メリークリスマス☆
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「もし、あんたの言うことが事実だとして」

 手慰みのように、くるりと回した煙管。
 それに合わせてたなびく紫煙を見つめる私に、彼は。
 ――又兵衛さんは、にやりと人の悪い笑みを向ける。

「あんたほどの変わりモノも珍しかろうよ」
「…人を珍獣のように言わないでくださいよ」

 非常に不服そうに言うと、呵々と又兵衛さんは笑う。
 無精ひげで、ぼさぼさの散切り頭で。
 ガタイの大きさも相まって、一見するとぼけーっとした。
 口も悪く、歯に衣着せない無神経な中年のおっさんなのに。
 ――この人の瞳は、とても穏やかで優しい。
 そのくせ、何処か孤独を浮かべている。
 それが、とても性質が悪いと私は思っている。
 
 そこに、どうしようもなく惹かれてしまうのだから。

「実際、珍獣の様なものじゃあないか。
 あんたのような女は見たことがないし、聞いたこともない。
 俺だけでなく、この城に居る全ての人間がそういうだろうよ。
 ――まぁ、明石殿辺りは『神の御使い』とでも言って、
 充分納得しそうだがな」
「…神様の使いだったら。こんな戦、指先一本で
 ちょちょいっと終わらせますよ」

 むす、と。子供のように拗ねて見せた。
 だって本当にそんな力があれば。

 私は、この大坂衆に。
 ――又兵衛さんに、完全な勝利と栄光を与えてあげるのに。

 失いたくない人。
 恋する、人。
 手を伸ばして、隣に座るその人の――
 又兵衛さんの袖を、きゅ、と軽く握った。

「――なぁ。未来にも、残るんだろう?」

 ぽつりと又兵衛さんが呟く。
 何のこと?と問えば、少し苦笑して私を見た。

「文。…あんた、太閤殿が残した願文、見たんだろ?」
「秀吉の願文?…はい。確かに見ましたけど」

 病気の母の身を案じ。
 せめて三年。ダメなら一年。それも無理なら三ヶ月。
 寿命を延ばしてくれと祈願し、奉納した願文。
 展示されたそれを、私は見た。

 頷く私に、又兵衛さんも頷く。
 そして少し。本当に少しだけ照れたような顔で、そっぽを向いた。

「あんたの言うことが正しくて。どんなに俺たちが頑張ったところで
 結果を覆せず、大坂方が負けたとして。――その時は、あんたに
 ここに居てほしくない。未来に戻ってほしいと思っている。
 あんたが生まれ育った、戦のない、世界に」
「…私が、邪魔ってことですか?」

 共に死ぬことも許さないほど。
 そう思って訊ねる私に、違う、と彼は力強く首を振る。

「俺はあんたに、生きててほしいのさ。何があってもな。
 戦の汚れも痛みも、俺達が背負って逝けば良いから。
 ――だが、それでも俺はあんたに未練を残すだろう。
 だから、もし…あんたが未来に戻ってくれたら。
 俺はあんたに宛てた文を、必ず残す。あんたの手に渡るよう、
 必ず守らせる。届けさせる。――過去から、未来のあんたに」

 だから、と。
 大きな手が私の頭の上に乗って、ぐりぐりと不器用に撫でた。

「俺が死んでも、未来で待っていてくれ。
 俺は必ず、あんたのもとに戻ってくるから」

 ――なんて人。
 なんて、勝手で。我儘で。私の気持ちなんて無視して。
 優しいのと同じくらい、残酷な人。

 それでも、私は貴方のことが――

「約束破ったら。後藤又兵衛は大嘘吐き、って。
 子々孫々に語り継ぎますからね」

 泣きそうだな、と自分で分かった。
 そしてやっぱり、頬を涙が零れおちていった。
 泣くなよ、と困った声。
 それが耳のすぐ近くで聴こえて――
 
 髭の痛さとくすぐったさに、
 思わず笑ってしまった。




     †
仄かに甘めな又兵衛さん文。
需要なくてもご閲覧いただき多謝v

文中にある、秀吉の願文を。
「清水寺秘宝展」なる展示でみてきまして。
近くに家光が寄贈した釣り灯籠(だったっけか)が
置いてあって、何か凄くロマンでした。
戦国の世が、すぐ身近にあるなぁって。
それを見ての、上記妄想。
秀吉の願文一つで、
何故か又兵衛さん妄想できる管理人が怖い。
 誰かの為に死ぬ。
 何かの為に死ぬ。
 『死ぬ』ことが当たり前すぎて、時々それが空恐ろしくなる。
 今、目の前で笑っている男たちは。
 『死ぬ』ことは考えていても
 『生きる』ことは考えていないのではないだろうか。


「主観の違いだな」

 ぷか、と。
 少々憎たらしいほど暢気な煙草の煙。
 それを悠々と吹かして、目の前の男は微笑った。
 それが少々面白くない女は、目を眇めた。

「そりゃそうですけど。でも、死んだら何もかもそこで終わりじゃないですか。
 家名が大事。主君が大事。誇りが大事。――大事なものだらけのくせに、
 安易に死を受け入れてる気がして、それが凄く嫌です」
 むす、と。
 口をとがらせ拗ねたような声で言えば、男――又兵衛はからからと笑う。
「だから、それが違うと言ってるんだ。――別段、死に急いでるわけじゃない」
 燻らせた紫煙。
 その行く末が命のそれに良く似ている気がして、女はそれを手で払った。
「では、何故。戦などするのですか?…正直、負け戦と分かっているのに」

 郭も外堀も内堀も。
 出丸として築いた真田丸も。
 何もかも崩れた。崩された。埋められた。――無くなった。
 事実上裸城となったこの城には、もう戦う術も守る術も無い。
 老獪たる天下の大狸相手に、野戦を仕掛けて勝てる見込みなど
 無いに等しいのではないか。

 ――此処は、もう。
 死にゆく者の棲む城。黄泉の城。
 ヨモツヒラサカを越えて、千引の岩が開くのを待つための枕城。

 それなのに、何故?
 声に出さない想いを。言葉を汲みとったのか、又兵衛は小さく笑う。
 無精ひげ面で、ムサイばかりの中年なのに。
 笑う顔は何処か少年のように見える時がある。――今、この時のように。

「あんた、存外理屈好きだな。――そのくせ、感情で動く」

 こん、と。
 又兵衛の持つ煙管が、煙草盆――その灰吹きを叩いた。
 ぽとりと落ちた灰の塊。ふ、と吹けば飛ぶその様は、今のこの城のよう。

「逆に訊きたい。其処まで分かっているのに、何故あんたは逃げないんだ?」
「!…それ、は…」

 ずばっと心の真ん中を射られた気がして、女は眼を逸らす。
 視線の先で、灰が。その中の埋み火が、ちらちらと女を見ていた。

「負け戦と分かってる。分かっている以上、此処に居ればあんたも死ぬ。
 俺や真田のような武士と違って、あんたは普通の女。戦う術もなけりゃ
 のちのち荒武者に『良いように』扱われるかもしれないと分かっていて。
 ――何故、あんたは逃げない?此処に居る?」

 視線が注がれる。
 又兵衛は答えを待つ。女は言えない。
 答えを知っているのに。

「……逃げても、行くところがないから。それに、私は……」

 ――最後まで、貴方の傍に、居たい。
 例えそれが意味することが、死であっても。

「一緒だよ。俺が今、此処に居るのも」

 優しい声。導かれるようにそちらを見ると、又兵衛は微笑っていた。

「軍師だ武辺者だと騒がれても、所詮俺たちは単なる戦バカなのさ。
 戦のない世になど、生きる道は無い。居場所などない。
 穏やかに暮らす生き方を知らない。――だったら、最期くらい。
 己の意思で決めたい。ま、花と散るを美学とは言わんがな」

 ――何が一緒だ、と。
 女は再び目を逸らして、唇をかんだ。
 根本的なところで、全く違うではないか。

「…やっぱり私には分かりません。又兵衛さんの言ってることは、
 死にたがりにしか聞こえません」

 最後の最期まで。
 この人と自分が交わることは無いのだと。
 それが酷く悲しい。

「その『死にたがり』にだって、見栄と夢くらい、あるさ」

 ぼそ、と呟かれた言葉。
 視線を向けると、少々ばつが悪いような。
 困った顔をしている又兵衛が居た。

「負けると分かっていることと、実際に負けることは違う。
 何があるか分からないのが戦なんだからな。…だから、もし。
 この戦に勝てたら。――死ぬことが出来なかったら。
 その時は、刀を捨てても良いんじゃないかと」

 がしがしと。照れたように頭を掻く又兵衛。
 不思議そうな黒い瞳に、口をへの字にしてそっぽを向いた。

「――まぁ、その時。俺に付いてきてくれるようなモノ好きが
 居れば、の話だが」
「!……居ますよ。きっと。どうしようもないような、モノ好きが」

 何だか妙に嬉しくて。おかしくて。
 くすくすと笑った女。
 笑うな、と制したその手を、又兵衛はそっと女の手に重ねる。


 ころり、と煙管が床に落ちた。







      †
…長い!(笑)
でも又兵衛話は書くの楽しいv(ヲイ)
相変わらずニセモノだなぁとは思いますが(苦笑)
真田丸潰されてるので、夏の陣直前の一場面。
又兵衛第四弾(待て)にして、初のほの甘。
…だが、違う。
又兵衛さんはもっとこう…フランクで理詰めで。
でも女心に疎い人なんだ!きっと!(落ち着け)
駄文ですが此処まで読んでいただき、多謝!
「どうかしたのか?」
 
 不意に声を掛けられて、少々吃驚しながら振り返る。
 背後に居た無精ひげ面の大男が、私を見て首を傾げていた。
 どうやら、盛大についた溜息を聞かれたらしい。
 別に、と。
 事もなさげに緩く首を振って、曖昧に笑った。

 ――そう、大したことじゃないのだ。
 少なくとも、私以外の人間にとっては。

 要は自分の気の持ちようで、自分自身で何とかしなければならない。
 他人の慰めも同情も、今は素直に受け取れない。
 何でも穿って見てしまう。
 きっと可愛げのない返答をして、呆れられるか。嫌われるか。
 何にしても良い結果など一つも生むまい。
 だから、言った。

「又兵衛さんが心配するようなことじゃ、ないですよ」

 安心して、と言いたかったわけじゃない。
 ひねくれて尖って、バカなほど複雑にねじれた心。
 それが「放っておいてくれ」という言葉と同義だと。
 自分でそれが分かっていて、酷く自己を嫌悪する。
 ――どうしてこう、可愛げと言うものがないのだろう。
 本当は、慰めて欲しいくせに。
 素直に受け取れないことが分かっていて、それでも。

 それでも言葉が欲しいくせに。
 おざなりでも建前でも社交辞令でも良いから。
 一言、何か欲しいくせに。

 そんな私を、暫し、じっと見つめて。
 彼は、ほんのわずかに目を細めた。
 ――と。
 
 ぽん、と。

 彼の大きな掌が、私の頭の上に乗った。

「な、何??何ですか??」
「…嘘、下手だな。あんた」

 にぃ、と。 
 少々意地の悪い。けれど優しい瞳で彼は笑った。

「言いたくなきゃ、別に無理に訊かんさ。
 だが、目は口ほどに物を言う、と言うだろ?
 ――だから、こうしてやる」

 ぐりぐりと。
 節くれだって、大きくて。
 どうかすると傷跡が見えている大きな掌が。
 私の頭を撫でた。
 
 ――ああ。もう。
 どうしてこう、この人は……。

「…あのなぁ。泣くなら泣くと言えよ。
 ――俺が泣かしたみたいじゃないか……」

 少し困ったような声。
 泣かしたんじゃないですか、と。


 やはり私は、可愛げのないことを言った。


   † † †


 摩利支天の再来――そう、自分を呼ぶ者が居ると言う。

「…何が仏だ」

 無骨で大きな掌を見つめ、ぼそりと又兵衛は呟く。
 泣きそうな顔で溜息をつき、何でもないと
 嘘をついた女の顔を思い出しながら。

「本当に仏なら。きちんと、救ってやれたのにな」

 言葉など必要とせず。
 目を見ただけで、彼女の抱える悩みも苦しみも。
 全て救ってやれただろうに。

「……て。バカか、俺は」

 らしくないことを考える自分が、酷く滑稽に思えて。
 又兵衛は、ガリガリと後頭部を掻いた。







    †

オフで落ち込むことがあったので。
自分を慰めようと又兵衛さんを書く(大丈夫か?
又兵衛さん然り、権現様然り。
大きくてどっしりしてる(体型がじゃなくて、中身がね)人が、
凄く好き。なので彼らの様な人に
「よしよし」って撫でてもらいたい。
何かこう、無条件に受け入れて、
存在を認めてもらいたいというか。
ちょっとそーゆー方向に落ち込んでるので。
少しだけ、何か癒された感じがするような。しないような(苦笑)
余談ながら摩利支天様は、「仏」って括って良いのだろうか…(調べろよ)
 すれ違いざまに肩がぶつかった。
 自分は対して衝撃がなかったものの、相手はよろけて尻もちをつく。
「悪いな、大丈夫か?…って」
 手を差し伸べながら、相手を見る。
 それが良く知る女だったから、又兵衛は少々目を瞠る。
「……っ!」
 彼女は何故か顔を真っ赤にして、ぷい、と又兵衛から視線を逸らした。
 おい、と声をかけるも、慌てたように立ちあがって小走りに去る。
「…………何だったんだ?」
 差し伸べた手は、残念ながら無用だったようだ。
 手持無沙汰にそれをプラプラさせると、どこからか吹き出す声が聞こえた。

「又兵衛殿、格好悪い」

「あぁ?…ってやっぱりお前か、真田!」
 ぷくく、と。さも可笑しそうに堪え切れぬ笑い声を零しながら、物陰から男
 ――真田が姿を現す。
 此処、大坂城でも一、二を争う性格の悪い美青年。それが、真田幸村その人。
 人となりはともかくその才能や武勇は、又兵衛も認めている。
 …ただし。最終的なところでは相いれないし、友人を気取るつもりもないと思ってはいるが。
 とにかく、この男は今、又兵衛を見て笑い転げている。
 嗚呼可笑しい、と。ご丁寧にも猫のように目を細めながら。

「女子に親切なのは結構ですけど。袖にされて黄昏ている様は、滑稽この上ないですね」
「別に黄昏てなんか居ねぇよ」
「では袖にされたことは認めると?へぇ、親切かと思ったら。又兵衛殿は、彼女に
 気があるから親切にしたわけだ?」
「一々揚げ足を取るな!…ったく、あんたと話してると、調子が狂う…」
 にやにやと笑う真田。その顔が何となく気に食わなくて、又兵衛は目を逸らす。
 がりがりと頭を掻くその仕草に、真田がさらに目を細めた。
「気分を害されましたか?」
 にこーっと。
 いかにも腹に一物抱えてます、と言わんばかりの笑みで見上げてくる真田。
 無視することも考えたが、それも逃げるようで嫌だな、と。
 又兵衛は、別に、と首を振った。それは重畳、と真田は微笑う。

「まぁ、でも。よりによって袖にされる格好悪いところを見てしまいましたからね。
 お詫びに良いことを教えて差し上げますよ」
「…どこまでも上から目線なのな、あんた」

 呆れる又兵衛に、ははは、と真田は笑うことで肯定した。
「先ほどね、明石殿、長曾我部殿、毛利殿…それに彼女を交えて五人で
 双六をやっていたのですよ」
「またカモばっかり集めやがって…。というか、あいつをそういう悪い遊びに
 巻き込むなと。俺は以前あんたに注意したはずだが?」
「巻き込んだんじゃありませんよ。彼女が自発的に加わったんです」
 しれっと答える真田。
 彼は普段から真実と嘘を巧みに混ぜて語る。――だから当然信用しなかった。
 けれど今更其処を責めても詮無い。で?と又兵衛は続きを促した。
「まさか女から身ぐるみ剥ぐほど稼いだんじゃないだろうな?」
「其処までわたしも鬼じゃありませんよ。…ただ、一つ。大事なものは頂きましたけど」
 にや、と。再び真田が悪い笑みを浮かべる。
 大事なもの?と鸚鵡返しする又兵衛に、真田は可笑しそうに笑った。


「心底惚れた男。その名前、です」


「…………はぁ?」
 疑問符ばかりが頭をよぎり、滑稽なほど間の抜けた声をだした。真田は笑う。
「鬼のようなる真田にその名を知られた所為で。可哀想に、彼女、その男と
 まともに会話もできないようですねぇ……」
「…お前…」
 非難ではないが、呆れた声で呟く又兵衛。あはは、と真田はただ笑った。
「良いじゃないですか。これで彼女の気持ちと想い人が、誰なのか分かったのですから」
「!」
 言葉に詰まった又兵衛。
 真田の言い分――彼の言いたいことが、真実ならば。
 彼女の想い人とは――……
「あらら。今度は又兵衛殿が、顔赤いですね?」
「~っ!…あんた、ほんとに鬼だな。性格が悪すぎる」
「お褒めの言葉と受け取りますよ。…ただね、又兵衛殿。鬼でも何でもよいですが。
 このくらい己で積極的に動かないと、大事なお人、他の誰かに取られてしまいますよ?」
 くす、と。
 茶化すのではなく僅かに『本当』の笑みで笑って。
 真田は背を向けて歩き始めた。
 その背が完全に見えなくなってから、又兵衛は深々と溜息をつく。

「…分かっているさ、そのくらい」


 誰にともなく呟いて、又兵衛は振られた掌を、じっと見つめた。




    †




懲りずに、又兵衛さん話。
あきらかに別館さんの方ですね。真田さんが性格悪いし(笑)
ネタの神様降りて来たので、赴くままに。
これ、ヒロイン(ヲイ)サイドのネタも考えてるのよねぇ…。
…いっそもう、本当にサイトで始めようかな…(待て
ああでもほんと又兵衛さん素敵。
又兵衛さん好きすぎですvv(惚)
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