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「来世?」
目の前の顔が、不思議そうに目を瞬いた。
光を受けて輝く右と、影の濃い左。
傍に置いた灯心に、どこから迷い込んだのか蛾が舞い遊ぶ。
触れれば死ぬ――
それが分かっているのか、いないのか。
どちらにしても、それは今の私も同じだろう。
拳三つ分ほど離れた場所――彼の目の前に座って、微笑む私と。
「――というと、死後、再び生まれる世のことか?」
「そうですね」
「そいを、信じるか、と?」
「はい」
不思議そうな顔が、一層、深まる。
私の笑みも、多分、同じだろう。
――ちなみに、と。
別に助け舟というほどのことではないが口にする。
「私は信じているけど、信じていません」
「はぁ?…何じゃそりゃ。答えになっちょらんぞ?」
不思議が怪訝へと移りゆく。
顰めた眉と、その下に輝く瞳。
…それがどれほど魅力的なのか。
この人は、自分で分かっているのだろうか。
「正確に言えば、『信じたいけど信じてはいけない』
……でしょうかね」
「……。なおのこと、分からん」
困ったように。
溜息交じりに言って、ぐしゃりと後頭部を掻く。
袖口から覗く腕の逞しさ。
節くれだって、剣ダコと筆ダコのある、長い指。
……それがどれほど愛おしいのか。
この人は、自分で分かっているのだろうか。
「だって、夫婦は二世の契りなんでしょう?」
口元に微笑みを。
目元に哀しみを。
言葉に、切なさを。
声に、溢れるばかりの愛おしさを、こめて。
「来世まで、予約済みじゃないですか」
口元に、微笑みを。
目元に、哀しみを。
言葉に、毒を。
声に、抑えきれない絶望を、こめて。
「だから、信じたくないんですよ。私も女ですからね。
売約済みの御方に二度も振られるのはごめんです」
「……。――俺を、責めるか?」
静かな声。 いいえ、と私は首を振る。
――だって貴方の所為じゃない。
「出会ったのが遅かっただけです。
生まれた時代が、違っただけです。
……私に、憎まれる覚悟がないだけです」
側室として、貴方に侍る勇気がない。
『あの人』に憎まれる覚悟ができない。
貴方の一番大事なものを、壊せない。
壊す、覚悟ができない。
「だから」
卑怯者にもなれない。なりたくない。
自己嫌悪で自己満足。
「来世では、もっと図太くて嫌な女になります。
……だから、ね――」
そっと手を伸ばし、貴方の手に重ねる。
節くれて、ごつごつして。
大きくて温かいその手を握ると、
貴方は私を見つめる。
――ああ、
その瞳を、独り占めできたなら。
「また、来世で出会ってください」
振られるのはごめんだけど。
貴方に再び会えない方が、ずっとずっと辛い。
「……来世が、二世とは限らんじゃろが」
ぽつ、と。
低く。そして、苦笑交じりの声が呟く。
「既に前世で契りを交わし、此の世が
二世なのかもしれん。
そうなれば、俺は来世で独り身ぞ。
お前を娶るに、何の不都合があるか」
重ねた手を、貴方が握る。
「卑怯者になりきれんのは、俺も同じじゃ。
臆病と笑えば笑え。……そいでん、俺は」
握った手を、貴方は引く。
逞しい腕で私を胸に閉じ込め、ぎゅっと抱いた。
「此の世も、来世も。そのまたさらに来世も、
ずっと、ずっとその先も――
お前とめぐり会いたい。
お前の傍に居たい。…そして、願わくば」
囁くのは。
申し訳なさと、情けなさと。
それ以上の、愛おしさの混じった声。
「来世こそ、お前だけの男に、なりたか」
――私もです、と。
言葉にする代わりに。
私は彼の背に手を回し、ぎゅっと抱きついた。
†††
偶に書きたくなる、家久さん(@咆哮!島津十字)話。
作中は御名前を出してないですけどね(^^;)
つーか、いまだに大好きなんですよ。
島津十字の家久さん。
好きすぎて「うわぁ」ってなるくらい、好き。
…最後の彼のセリフは、言われたいという、妄想(笑/危ねえ)
二世について、ちょっと補足。
夫婦は、此の世と来世で二世の縁。
つまり此の世で夫婦だった二人は、
来世でも必ず夫婦になるってことだそうで。
ちなみに親子は一世だそうです。
親子の方が縁が薄いって切ないねぇ…。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。